身代わり少女は主人を慕う
怖すぎて、足がすくんだ。

立っているのが、やっとだった。

「いいですね。」

「……はい。」

私が返事をすると、奥様は家の奥に、歩いて行った。


「うたさん、大丈夫ですか?」

「えっ、あっ、はい。」

志麻さんが後ろから支えてくれなかったら、私、本当に倒れていたかもしれない。

でも、あんな風に言うのも、当たり前かな。

可愛がっている娘が、結婚決まった途端に、家から飛び出して帰って来なくて。

代わりの人間ですって、目の前に連れて来られたのが、私みたいな田舎の娘じゃ。

「うたさん。しっかりしてください。今はまだ、お嬢様ですよ。」

「は、はい。」

そう、部屋に辿り着くまでは、私はお嬢様なんだ。

背筋をピンと伸ばし、私は急いで、自分の部屋に戻ろうとした。

その瞬間、誰かとぶつかった。
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