星降る夜の奇跡をあなたと

名前呼び

家に着き、私は買ったものを
片付けたり、夕食の準備をした。
遠藤さんはその間、課題をしている
様だった。準備を終えた頃、
遠藤さんも一段落ついたようで、
寝室から出てきた。

「またご飯作ってくれたの?」

「私に出来ることってあまりないので」

「ありがとう」

遠藤さんは、私の作った夕食を
“美味しい、美味しい”と食べてくれ、
思えば家族以外で、自分で作った物を
人様に食べさす、しかもそれが異性
だなんてという事に気付き、ちょっぴり
恥ずかしい感じがした。
私がこっちに来たであろう
時間も近付き、いざOne Treeへ行こうと
言うとき、遠藤さんが寒いからと
マフラーを首に掛けてくれた。
首と共に心も温かくなかった気がした。

One Treeは変わらずこの時間に人は
居なかった。そして寒いのも一緒。
あの時は星が流れたと思ったら
すぐに温かい空気と光に包まれた。
だが、一向にそれを感じる事は
なかった。寒さも限界になり、
今日は終わりにしようという事で
帰る事にした。長時間もこんな寒い中に
居させた上、何も起こらないなんて…

「そんなに落ち込まない。まだ
 始まったばかりでしょ。それに
 今日、色々物を買ったのにこれで
 戻れてたら無駄になる所だった」

この人は本当に優しい。こんな厄介事に
巻き込まれているのに。

「遠藤さん、本当にありがとう
 ございます。私、もっとしっかり
 しますから」

「和奏って、“ありがとう”って
 ちゃんと言えるよね?」

「えっ!?」

「みんな言えるって思ったでしょ?
 人ってこういう時、大抵謝るんだよ。
 それが悪いって言ってるんじゃ
 ないんだけど、ただ和奏の“ごめん”
 じゃなくて“ありがとう”が先にくるの
 っていいなって事。そういう和奏
 だから一緒に居るの苦じゃない。
 これからも一緒に住んでいくのに
 謝ってばっかりなんて嫌じゃん。
 それから、いつになったら
 “蓮”って呼ぶの?」

今まで、最低限でしか男の人と関わった
事がない私にとっての名前呼びの
ハードルは高い。だけど、この人は
相手を不快にさせずに
いとも簡単に飛び越えてくる。
この距離感を私は知らない。でも
きちんと受け入れられている自分が
いる。最大限の感謝を込めて伝えた。

「ありがとう。蓮」
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