眠りにつくまで






経営コンサルタント三鷹聖として、今日はホテルを会場とする経済フォーラムのパネリストの一人だ。

俺もビジネスパートナーの榊原玲央も、こういった仕事は断ることもあるが、今回は大学時代に世話になった教授からの紹介なので引き受けた。教授にはアメリカの大学への橋渡しに尽力していただいた恩がある。日本では法科だった俺たちがあちらで経済と経営を学べる学科へ入るのは点数の問題ではなく、畑違いだと敬遠されたので、教授は本当に苦労して俺たちをアメリカの大学へと送り出してくれた。

ありがたいことに、年々、仕事の依頼は増えており、その立て直しに成功した会社の飛躍がまた次々に仕事を引き寄せる。だから経済誌の取材等も含め、こうしてマイクやカメラの前に座る仕事はお断りする仕事が増えるのだが、今日はやむを得ない。

見学していた教授とはフォーラム終了後に会った。そしてパネリストの一人だった他大学の教授と3人で食事をすることになる。

そのレストランに墓地で会った女性がワインレッドのロングドレスで現れた時、ああ…ピアニストって言ってたな…名前も忘れた…彼女と同じ‘H’だった…とは思い出した。それ以上は気にもならず、会話の邪魔にならない程度のピアノを聞くこともなく二人の教授たちの話を聞く。フォーラムよりこの時間に吸収することの方が多い。

「三鷹さん、こんばんは。早速いらして下さって嬉しいです」
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