我が身可愛い大人たち
断りの返事だが、雅巳にとっては想定内だった。
美鳥らしいまっすぐさが眩しい。やはり彼女を好きだと、改めて実感した。
『そうか……わかった。けど、足掻いても足掻いてもダメだった時は、俺に連絡してほしい。愚痴を聞く相手くらいにはなれる。弱みに付け込む可能性もないとは言い切れないが』
冗談めかしたが、最後のひと言は雅巳の本心だった。美鳥もそれを理解しているはずだが、彼女は頷いてバッグからスマホを出した。
強がってはいても、セックスレスの事実が彼女の心に落としている影は大きいのだろう。
『……じゃあ、連絡先』
『ああ』
積年の恋心を美鳥にぶつけたせいか、いつの間にか雅巳の胸はスッとしていた。
ふたりは言葉少なに電話番号とメッセージアプリのIDを交換し、美鳥は先にタクシーで帰っていった。
フラフラと歩きだした雅巳は、吐き気こそ治まっていたものの前後不覚の状態で、歩道に積まれていたゴミ袋に倒れ込んで寝入ってしまう。
『梓沢……』
美鳥の名を呟き、意識を失う。
幸福な夢の中へと堕ちていく感覚がした。