我が身可愛い大人たち
それでも、どうしても美鳥に伝えなくてはと、必死で口を動かす。
「あ……、あ……っ」
泣き声や洟を啜る音も混じり、なかなか言葉にならない。
でも、美鳥はジッと絵里奈を見つめ、待っていてくれた。
絵里奈はぐしゃぐしゃの泣き顔をさらに歪めて、声を絞り出す。
そして彼女の口から出た言葉はもちろん、〝あんたのせいで〟ではなく――。
「ありがとう……っ」
その声はビル風にも負けず、美鳥の耳に届く。
夫をたぶらかした憎い女性であったはずの彼女に、こんなことを思うのはおかしいかもしれない。
でも、不器用でいたいけな吉野絵里奈という女性を、美鳥はその時確かに、可愛いと思った。
FIN


