我が身可愛い大人たち

『一度だけというのは本当? 後で泣きつかれても困るよ』
『平さん……いいんですか?』
『チョコレートのお礼もあるしね』

 和真はあえてさりげない調子で答え、にこりと微笑んでみせる。余裕ぶった仮面の裏では、久々に若い女が抱けるとガッツポーズを決めたい気分だった。

『ありがとうございます……! あの、いつにします? 私は今夜すぐでも大丈夫なんですけど』
『ああ、僕も構わない。場所はどうする?』
『それなら、私の部屋にいらしてください。狭いですけど許してくださいね』

 お茶目に笑った絵里奈を前に、和真は天にも昇る思いだった。

 独り暮らしの絵里奈の生活空間に、既婚者の上司である自分が入り込む。なんと甘美な背徳だろう。

 念のため会社を出るタイミングは別々にしたが、先に出ていた絵里奈が路地裏に入ったところで和真を待ち、腕に絡みつくように身を寄せてきた。

 甘い香水の香りがふわりと和真の鼻腔をくすぐり、陶然とする。

 そのままいそいそと絵里奈の部屋へついていった和真は、絵里奈が振舞ってくれた紅茶には目もくれず、狭いシングルベッドで彼女を抱いた。

 時には絵里奈が上になり、積極的に腰を振る。淫らなその姿がたまらなかった。声を押し殺し、自ら積極的には動こうとしない美鳥とは大違いだ。

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