我が身可愛い大人たち
(こんな相性のいい体を知ってしまったら、俺は……)
最後の瞬間、コンドーム越しにだが絵里奈の中にすべてを吐き出した和真は、この上なく満たされた思いで、彼女に体重を預けた。
そして呼吸を整えている途中、自然と絵里奈の耳元で口にしていた。
『絵里奈ちゃん……俺、また時々ここに来ていい?』
首を動かし和真と目を合わせた絵里奈は一瞬驚いていたものの、すぐに嬉しそうに頬を緩めて頷いた。
『いいですよ。私もまた、和真さんとこうしたい』
『かわいいこと言うなよ』
『だって、本当の気持ちですもん』
和真の胸に、まるで初めて彼女ができた十代の頃のような甘酸っぱい感情が湧く。
絵里奈が好きだ。その気持ちだけでなんでもできそうな高揚感のあと、けれど現実の自分は家庭のある三十二の男だという事実が、ゆっくり彼を萎えさせていく。
『もう一度抱きたいけど……帰らなくちゃな』
名残惜しそうに口にして、和真は絵里奈を抱き寄せる。
『いつでも来ていいですから。それに、会社でも会えます』
『そうだな。憂鬱な仕事が少し楽しくなりそうだ』
淡いピンク色の天井を見上げ、和真は呑気に呟いた。
これを純粋な恋の始まりだと思うほど和真も馬鹿ではないが、絵里奈の存在が味気ない毎日をほんの少し変えてくれると思うだけで、胸が弾むのだった。