我が身可愛い大人たち

「ありがと。お詫びになんか買ってあげようか。なにが欲しい? 服? バッグ?」
「そんなのいりません。でも……」
「でも?」

 しばらく物憂げに睫毛を伏せていた絵里奈だが、やげて上目遣いで和真を見上げ、彼の首に自分の腕を絡めた。

「たとえ誕生日でも、奥さんのことは抱かないでください。私が独り占めできるのは、平さんとセックスする権利だけだから……」
「そんなこと心配してたのか。妻とはレスだって言ったろ」

 和真は笑い飛ばして、絵里奈の頭にポンと手を置く。この程度なら、嫉妬されるのも悪い気はしない。

 絵里奈が純真無垢な少女のように見え、そんな彼女を支配している自分に優越感を覚える。

「本当?」
「もうオジサンだから、さすがにふたり抱く体力はないよ。そんなに不安なら、もう一回搾り取っておくか?」
「……うん。そうします」

 素直に応じた絵里奈は、和真と向かい合うようにして彼の膝の上に跨る。

 埠頭にぽつんと停まった一台の車が不規則に揺れ始め、時折車外へ漏れる絵里奈の喘ぎ声は、夜の波音に紛れて溶けていった。 


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