お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
 気持ち悪さはないが、わずかに頭がぼうっとして体が熱い。けれど意識もはっきりしている。

 午後九時を過ぎて、そろそろ店を出ようと会計を済ませる。店の外に出てタクシーを拾い、職場近くの最寄り駅まで相乗りして行く流れになった。

「そういえば逢坂先生、今日ご主人は?」

「あ、仕事なんです」

 後部座席で隣同士になった萩野先生に尋ねられ、答える。

「新婚さんなのに、旦那さんは相変わらずお忙しいのね」

「そう、ですね。でも少しでもそんな夫の支えになったらって思います」

 いつもなら軽く頷くだけなのに、このときはアルコールも入っているからか自分に言い聞かせている言葉が漏れる。すると萩野先生は私の肩をぽんっと軽く叩いた。

「逢坂先生、健気ねー。けれど夫婦だからってなんでもしてあげちゃダメよ? 楽したくて結婚したい男性もいるみたいだけれど、妻は夫の家政婦でもお母さんでもないんだから」

 迫力ある言い分に私は苦々しく笑う。川島先生が「生々しい感想ですね」と茶々を入れた。そこから川島先生に話の標的が移ったのはいうまでもない。

 その隙にさりげなくスマホを確認する。

 さすがに大知さんは帰っているかな。大知さんから終わったら連絡するようにと言われたけれど、どうしよう。

 駅まではみんなで、タクシーで行くし。そのとき歩いて帰る旨も合わせて連絡しよう。

 駅で降りて解散となる。萩野先生と川島先生はここから電車に乗るはずだ。ふたりにそれぞれ今日のお礼を告げて、いつもの道を行こうとする。
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