お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
「やっぱり子どもとはいえ男ですね」

「そういう川島先生も、子どもたちはもちろん保護者にまで大人気じゃない」

 園長先生がにこにこと答える。たしかに川島先生は、子どもたちからは先生というよりお兄さんのように慕われ、保護者にも丁寧な対応で信頼を得ている。

 私も見習わないと。

 朝のミーティングを終え、今日も一日が始まった。

 たまに早番や遅番があるけれど、きっちり時間制なのは有難い。一歳児のサポートに入り、まだ保育園に慣れず親との別れに泣く子どもたちを落ち着くまで抱っこする。

 勤めていた幼稚園は原則三歳以上だったので、これくらいの年齢の子どもたちは大学での実習以来だ。

 あの頃を思い出しつつ一人ひとりに向き合うよう努力する。


 今日も一日、無事に終わってよかった。終業後、駅に向かっていたら、ちょうど同じタイミングで帰宅となった同僚の萩野(はぎの)先生と川島先生に声をかけられる。

 萩野先生は中学生と高校生のお子さんがいて、保育士としても親としてもベテランの彼女は、気さくな性格も合わさり保護者から育児の相談をされる機会も多い。

 仕事でわからないことや、困り事はしないかとさりげなく気遣われる。

「逢坂先生、たしかご結婚されてこちらに来たのよね?」

「はい」

 話の流れで質問され、素直に答えた。萩野先生は頬に手を当て、懐かしそうに微笑む。

「新婚さんなんて羨ましいわ。うちなんてもう仮面夫婦よ」

 冗談だろうと思って返そうとしたが、萩野先生は神妙な面持ちになる。
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