お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
 言い切る萩野先生に、なんて返せばいいのかわからない。

「なんでそんなふうになったんですか? 最初は愛し合っていたわけでしょ?」

 そこに川島先生が口を挟む。

「そもそも結婚したきっかけはお見合いだったのよ。親も周りもうるさかったから、とりあえず会ってみて、お互いに年齢も年齢だしまぁいいかなって」

 冗談めいた軽い口調の萩野先生に、川島先生は苦虫を噛み潰したような顔になった。

「やっぱり結婚に夢や希望を抱いたらいけませんね」

「多少の憧れと勢いは必要よ。川嶋先生、まだ若いんだから大丈夫!」

 軽快なやりとりをふたりが交わしている一方で、私の胸にはなにかがチクリと突き刺さる。この痛みの理由は、はっきりしない。

「そういえば逢坂先生のご主人、なにをされている人なの?」

「あ、えっと……」

 不意に萩野先生に話題を振られ我に返ったが、とっさに答えられない。

 伴侶が裁判官をしていると話す自体は問題ない。ただ、大知さんはあまり誰彼に職業について言わないでほしいみたいだった。

「ごめんなさい、詮索するつもりはなかったの」

 戸惑う私の様子からなにか察したのか、萩野先生が話を終わらせる。気を使わせて申し訳ないと思う反面、内心ではホッとした。

 職業柄、プライベートでさえ足を運ぶ場所にも気を使い、制約を受ける場合もある。中立や公平性を保つために特定の人間と深く付き合うのもよしとされていない。
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