お見合い仮面夫婦の初夜事情～エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい～

『会話は必要最低限でお互いに干渉はしない。夫にとっては妻というより家事をしてくれる同居人って認識ね。スキンシップなんて皆無よ』

　不意に萩野先生の発言が頭をよぎる。仮面夫婦だ、なんて言っていたけれど、それなら今の私たちはどうなんだろう。

　彼に抱かれたのもたった一回だけで、あれから一切求められていない。

　そもそもあのときだって、初めてで緊張していてろくに大知さんに応えられなかった。

　やっぱりあきれられた？　そもそも結婚したから義務で？

　今さらながら思い出して、血の気が引きそうになる。大知さんは忙しいからしょうがないと思っていたけれど、もしかするとやっぱり、私自身の問題なのかもしれない。

『そもそも結婚したきっかけはお見合いだったのよ。親も周りもうるさかったから、とりあえず会ってみて、お互いに年齢も年齢だしまぁいいかなって』

　ズキズキと痛みだす胸を手で押さえる。私たちもお見合いを経ていて、愛し合って結婚したわけじゃない事実が胸に突き刺さった。

　それどころか大知さんにとって私は、お姉ちゃんが断ったから選んだ相手で……。

　もしかして私たち、仮面夫婦なの？

　すぐさま頭を振って沈みそうな自分に活を入れる。とりあえず寝室で休む前に、大知さんに挨拶だけでもしておこうと決めた。

『大なり小なり多くの人の人生を変えるほど、裁判の影響は大きいと思っています。だからこそ、いつもその時々で最善を尽くせるよう努力は惜しまずにいたいです』

　裁判官に任官したときの大知さんの言葉をふと思い出す。