お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
「ゼロ歳児や一歳児の相手なんて実習以来なのですごく緊張します」

「大変だな」

「でも、とっても可愛いんですよ!」

 力強く返す。幼稚園とまるで勝手は違うし大変なときも多いが、やはり子どもたちの成長に寄り添える仕事はやりがいがある。

「千紗は昔から子どもが好きだったな」

 しみじみと呟かれ、私は勢いを収めた。

「……大知さんは、お仕事いかがですか?」

 思いきって今度は私から質問する。大知さんは一瞬、考える素振りを見せた後、静かに微笑んだ。

「なかなか思い通りにいかないことが多いけれど、なんとかこなしているよ」

 曖昧な言い方になるのはしょうがない。仕事で取り扱う内容が内容だけに、私みたいに気軽に話せないよね。仮に話してもらっても理解できないだろうし。

 大知さんは食後も仕事があると自室にこもっている。

 法律という基準があるとはいえ、どの裁判も事情は違い千差万別だ。他の裁判官と意見を交わす中、すんなり判決が決まらない場合だって多い。

 それでも感情に流されないよう心がけ、過去の裁判を参考にするなど慎重かつ冷静に目の前の裁判に向き合う。

 大知さんの性格上、勤務時間だけが仕事だと割り切れないんだろうな。一生懸命な人だから。

 ひと通りの家事を終わらせ、ある程度くつろいだのでそろそろ休もうかと時計を確認する。スマホの画面から目を離し、無意識にため息が漏れた。

 広いリビングにひとり、寂しいと思うのはワガママなのかな。でも、大知さんの邪魔にはなりたくない。
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