お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
 そういった人たちの気持ちと法律に向き合い、最善の判決を下さなくてはならない。それがどれほどの重圧か。

 見学者の女性の間ではひそかに大知さんの容姿が話題になっていた。

 私も父が裁判官ではなかったら、大知さんと知り合いではなかったら、きっとそんな感想を抱いて終わりだったのかもしれない。それくらいのミーハー心だったらどんなに楽だろう。

 改めて大知さんを尊敬するのと共に、やはり自分にとって彼はすごく遠い人で、募らせ続ける彼への想いを早く断ち切らなければと必死に言い聞かせていた。

 そんな彼と結婚して、今は妻としてそばにいるなんて不思議だ。

 結婚する前から彼はこの車に乗っていたので、もしかすると過去に付き合った女性たちも座ってきたのかもしれない。

 でも今は私だけだよね?

「どうした?」

 完全な不意打ちで声がかかり、心臓が口から飛び出しそうになる。

「あ、いいえ。明日のお弁当どうしようかなと思って」

「ありがとう。千紗も働いているのに弁当まで用意してくれて」

 信号で停止したタイミングで大知さんはこちらを向いていた。

「お口に合っていますか?」

「うまいよ。同僚にもよく羨ましがられる」

「え?」

 さらりと返された内容は初耳で、思わず声をあげた。驚きとなんとも言えない気恥ずかしさを感じる。

 お弁当の人って少数派なのかな?

 裁判所の周りは行政機関も多く、働いている人も大勢いて、周辺の飲食店は充実していた。

 もしかして大知さんもリフレッシュするため外に出るほうがいい?
< 32 / 128 >

この作品をシェア

pagetop