お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
「いや。もうすぐ着くな」

「あ、本当ですね」

 辺りをきょろきょろ見回して確認する。やって来たのは小さな牧場だ。

 なんでも家族経営で乳牛を育てていて、地元特産の牛乳として出荷しているのがメイン事業らしいが、土日は牛舎を開放し他の動物とも触れ合いができるそうだ。

 敷地内では奥様が新鮮な牛乳を使ったお菓子屋を営んでいて、そこのスイーツ目当てにやって来る人も少なくない。

 今度、ここに保育園の遠足で来る予定になっていた。子どもたちや他の先生方に聞くと、わりと家族で出かける定番スポットらしい。多くの子どもたちがどんな動物がいるのかなど詳しく教えてくれた。

 初めて知り、遠足の下見も兼ねて一度足を運んでみたくなったのだ。そして今回の行き先としてリクエストに挙げた。

「嬉しそうだな」

 シートベルトをはずしていたら大知さんに声をかけられる。

「はい。大知さんとたくさんおしゃべりできて嬉しかったです」

 いつも家では忙しく疲れているであろう彼に遠慮して、こんなふうに他愛ない会話をゆっくり楽しめたのは久しぶりだ。

 ところが、どういうわけか大知さんは私の回答に目を見開いた。続けて彼の大きな手のひらが私の頭にのせられる。

「これからは、家でももっと一緒にいる時間を増やすから」

 真剣な面持ちで告げられ、とっさに私は小さく首を横に振る。

「あ、いえ、そんな。大知さんがお忙しいのはわかっていますし、そういうつもりじゃ」

 もしかして責めているように聞こえた?
< 34 / 128 >

この作品をシェア

pagetop