お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
 狼狽する私の右手を大知さんがさりげなく取り、伝わる温もりに思わず動きを止めた。

「俺が千紗と一緒にいる時間を増やしたいんだ」

 きっぱりと宣言され、息をのむ。相変わらず大知さんは真面目だ。結婚したから夫婦としてきちんと歩み寄ろうとしてくれている。

 そこに甘えていいのかな? 彼を支えるために結婚したのに……。

 あれこれ考えていたら不意に大知さんに握られていた手を軽く引かれる。そのまま唇を掠め取られ、私は大きく目を見開いた

 一瞬の出来事に頭が追いつかない。至近距離に彼の整った顔があり、唇に残る余韻に体温が急上昇する。頬に両手を当て今度はあからさまに動揺した。

 周りに人の姿は見えないが、ここは外だ。

 大知さんってこんなことする人だった?

「あ、あの」

「ほら、行こうか」

 反応に困っていると車から降りるよう促され、こくりと頷くのが精いっぱいだった。暑すぎず寒すぎず、春の陽気が心地いい。絶好のお出かけ日和だ。

 今日、牧場ではポニーの赤ちゃんのお披露目会とともに体験乗馬イベントが開催され多くの人で賑わっていた。

 場内を散策していたら予想通り家族連れが目立つ。ポニーの柵の前には大勢が詰めかけ、体験乗馬には長蛇の列ができていた。

「子どもたちの目、キラキラしていますね」

 待っている子どもたちの表情を見てなにげなく呟くと、大知さんが隣でふっと笑った。

「あいかわらず千紗はそういうところに目がいくんだな」

「そ、そうですね。職業柄といいますか」

 無意識とはいえせっかく牧場に来たのに、動物よりも子どもを目で追ってどうするの。
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