お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
 混んでいるポニーのところは後回しにしてさらに奥へ歩くと、広々とした牧場の一画にサークルが置かれ、その中には元気に跳ね回るうさぎがいる。ざっと見て十羽ほど。

 なんとも贅沢な敷地の使い方だと感じる。

「うさぎたちものびのび暮らしていますね」

「なんでもありだな。あっちには猫までいる」

 大知さんの目線の先では、二匹の猫がひなたぼっこをしてくつろいでいた。警戒心がまるでないところを見ると、飼い猫なのか、野良猫なのか判別できない。

「ミルクとココア元気かな?」

 口をついて出たのは実家で飼っている猫の名前だった。

「千紗が拾ってきたんだよな」

 懐かしそうに返した大知さんに私は頷く。私が大学生の頃、帰宅途中に家の近くで捨てられている仔猫を発見し、拾ってきたのが出会いだ。

 最初は飼い主が見つかまるまでといって両親を説得し、しばらく家で面倒を見ていたのだが、最終的には我が家で飼う流れになった。

 今ではすっかり我が物顔で永住権を得ている。

「大知さんも、よく気にかけてくれていましたよね」

 拾ったときは二匹とも弱りきっていて、連れて帰る以外の選択肢はなかった。大知さんは突然我が家に加わった猫の存在に驚きつつ、事情を聞いてそれから家に来るたびに二匹の現状も聞いてくれた。

「千紗に拾われた二匹は幸せものだな」

「だといいんですけれど……目が合った瞬間、居ても立ってもいられなくて……ひと目惚れだったんです、きっと」

 実習で疲れたときも社会人になってからも、二匹には癒され続けている。
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