お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
 私たち姉妹を知る人からは悪気の有無にかかわらず、なにかと比較された。

 それでいて外見、成績、要領や器量のよさ、どれをとっても姉には敵わない。

『本当に姉妹なの?』

 冗談めかして何度尋ねられただろう。でも大知さんは出会ってから今までで、一度も私たち姉妹を比べたことはない。

 さっきも大知さんが庇ってくれて、私の気持ちを汲んでくれて嬉しかった。

「千紗は千紗だよ。万希とは違う」

 けれど続けられた大知さんのなにげないひと言に胸がちくりと痛む。その理由は自分でもよくわからない。

 なんで? 大知さんの言い分は間違っていない。私はお姉ちゃんとは違う。

 理解している一方で、真っ青な空に対し私の心の中に暗雲が立ち込めていく。

「ほら、次はなにを見に行く? ポニーはまだ人が多そうだが」

 不意に大知さんに左手を取られ、私の意識はすべてそちらに持っていかれた。外で手を繋ぐなんて初めてで、衝動的に引っ込めそうになる。ところが意外と力強く握られていて、手は離れなかった。

「あ、あの。じゃあ、先に牛舎の中を見たいです。少し前に子牛が生まれたらしくて……」

「わかった。行こうか」

 そのまま手を引かれ、緊張しながらぎこちなく握り返すと彼の指先に力が込められる。

 大好きな気持ちが溢れ、心臓がうるさい。

 ひと通り見て回り、存分に牧場を楽しめた。子牛の毛並みはつやつやで母牛にくっつく姿は人間とそう変わらない。
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