お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
 言い知れない気恥ずかしさに包まれ、このあと普通に食べ進めるのが躊躇われる。

「早く食べないと溶けるぞ」

「あ、はい」

 指摘され、再度スプーンを使って食べ始める。喉に冷たい感触が滑り、少しだけ冷静になった。

 大知さんにとってはデートというより、子どもの引率に近いのかも。

 さっきの発言も合わさり、違う場所を選ぶべきだったかとわずかに後悔する。そのとき大知さんの携帯が鳴り、彼は画面をしかめ面で見つめた後、電話に出た。

 声色や口調から、すぐに仕事の用件だと気づく。目で合図され、頷いた。店の近くなのもあって、ここは賑やかすぎる。

 大知さんは申し訳なさそうに私の頭を撫でると、電話の応対をしながら、場所を変えようと人気のないところへ歩を進めていった。

 彼の背中を見送り、残りのソフトクリームを食べ終える。

 手持ち無沙汰になったが、下手に動かない方がいいと思いぼんやり辺りを見渡した。

 大知さん、やっぱり忙しいんだ。

「あれ、逢坂先生?」

 どこからともなく名前を呼ばれ、現実に引き戻される。

「川島先生」

 そこには同僚の川島先生がいた。グレーのカットソーにデニムのジーンズと、職場のときとはまた雰囲気が違っている。

「どうしたんです? おひとりですか?」

「あ、いえ夫と。仕事の電話が入ったみたいで今は席をはずしていて……」

 私の答えに川島先生は苦笑した。
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