お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
「代わりにしていたのかもしれません。口にしなくても無意識に元奥さんと彼女を比べちゃって、それを元奥さんも感じていたのかも」

 川島先生の呟きに胸が軋む。どういうわけか他人事だと流せない。

「って、こんな話すみません。つい……」

 私の表情が沈んでいたからか、彼はやや焦った面持ちになった。私は静かに首を横に振る。

「いえ。誰かに話を聞いてほしいときってありますよね」

 同僚とはいえそこまで親しくない私だから言えたのかもしれない。

「ありがとうございます。逢坂先生のところはいいですね。仲良くご夫婦で来られて」

 不意打ちでこちらに話題を振られ、素直に頷けない。

「ど、どうでしょう。私が無理を言ってここに連れてきてもらったので……」

 川島先生の話を聞いて不安になる。大知さんは私の希望でいいと言ったけれど、実際にはどうなんだろう。

「なら、俺がお誘いすればよかったですね」

「え?」

 一瞬、なにを言われたのか理解できない。固まっている私に川島先生はにこりと頬笑みかける。その距離はいつの間にか随分近い気がした。

「遠足の下見なら仕事のうちでしょうし」

 そう言って川島先生は立ち上がり、「また月曜日に」と告げて颯爽と去っていく。

 しばらくして水面から上がったように大きく息を吐いたのと同時に、背中に嫌な汗が伝う。

 拒否反応に近い胸の痛みと、勘違いしてはいけないと自分を叱責する気持ちが半々だ。

 川島先生は仕事の一環としてここに来たから、冗談で言ってきただけだ。本気にしてはいけない。なにより彼は私が既婚者だと知っている。
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