お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
「今日、途中で抜けた埋め合わせは、またどこかでするから」

 予想外の彼の発言に私は目を見開いた。

「そ、そんな! 気にしないでください。十分に楽しかったです」

 忙しい大知さんが、私の希望を優先して一緒に過ごしてくれた。感謝こそすれ文句なんてばちが当たる。

「俺は、十分じゃなかった」

 けれど大知さんが静かに主張してきたので、血の気がさっと引いた。

『それにしてもご主人、よくこんなところに付き合ってくれましたね』

 川島先生の言った通り、大知さんには物足りない場所だったかもしれない。

 不安になる私をよそに大知さんは自身の前髪をくしゃりと搔いた。

「千紗と過ごしていたのに、つい仕事を優先した」

 後悔しているような物言いに、目を瞬かせる。相変わらず大知さんは真面目だ。きっと、先に私と約束していたのを気にしているのだろう。

「それはしょうがないですし、私もわかっていますから」

 父も裁判官だったから、ある程度仕事の大変さは理解している。裁判官の職務は裁判を行うだけじゃない。

 懸命にフォローしていたら、いつの間にか大知さんは真剣な顔でこちらをじっと見つめていた。その表情に言葉を止めると、彼の唇がおもむろに動く。

「千紗を独占できる貴重な機会だったのにな」

 本気なのか冗談なのか、判断ができない。顔が熱くなりそうなのを堪えて、反射的に彼から視線をふいっと逸らす。
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