お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
「千紗の大事な恋人たちだからな」

「そんな……。久しぶりに会ったら、私を見ても二匹とも誰?ってなるかもしれませんよ」

 そこまで薄情ではないと信じているけれど。私の切り返しに大知さんは目を丸くしてからおかしそうに笑った。暗がりの中、その笑顔ははっきりと目に映る。

 私は自分から彼に身を寄せた。

「二匹が私の恋人なら、大知さんは私の大事な旦那さまですから」

 照れて彼の顔が見られないでいると、強く抱きしめられる。

「俺にとっても千紗は大切な奥さんだよ」

 額に口づけが落とされ、幸せな気持ちに包まれる。

 私、少なからず妻として大知さんに必要とされて、求められているんだよね?

 触れ合いが中断して、寂しかったのが吹き飛び、思いきって甘えるように彼にすり寄った。

 目を閉じてしばらくすると、鈍い痛みが胸を襲う。隠して、気づかないようにしている小さな傷。

 今なら大知さんに聞けるかな。姉との結婚を希望していたのに、結婚相手は私でよかったんですか?って。

 でも、たとえ大知さんが本音でどう思っていても、きっと彼は私の気持ちを汲んで精いっぱいフォローしてくれるに違いない。

 だから、なにも知らないふりをしていたほうがいいんだよね。下手に話して、大知さんとの仲が気まずくなるのは嫌だ。

 彼と結婚したのは私だ。その事実だけで十分じゃない。

 大知さんに抱きしめられ幸せいっぱいのはずなのに、心が陰っていく。明日、久しぶりに姉に会うのが楽しみのようで、少しだけ怖かった。
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