お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
 今日も大きなトラブルはなく予定通り業務を終えられそうだったが、延長保育を予定していた子どもが体調を崩し、保護者が迎えに来るまで付き添うことになった。

 無事に引き渡し、ホッと胸をなで下ろす。少しだけ遅くなったが、問題ないだろう。

「逢坂先生」

 帰り支度をしているところに川島先生から声をかけられる。

「これ、園長先生からです」

「ありがとうございます」

 彼から差し出されたのは、長年幼児教育に携わっている有名な先生の講演会を知らせるチラシだった。なんでも園長先生の知り合いらしい。

 今週の土曜日に文化会館で開催予定らしく、まだ定員に空きがあるので園長先生から職員全員に周知があった。

 行くなら取りまとめるそうで、申し出をしなくてはならない。

「逢坂先生は行かれます?」

「そう、ですね。せっかくですし……」

 迷いつつもうなずく。講師の先生はいくつか教育に関する本も出版していて、私も大学生の頃に読んだ。

 わかりやすくためになる内容だったので、本人の話を聞いて損はないだろう。それに、この土曜日はたしか大知さんは仕事だったはずだ。

「あ、すみません。私、この後用事があるのでもう失礼します」

 自分の置かれている状況を思い出し、私は慌てて帰る方向に体を向ける。

「旦那さんとデートですか?」

「いえ。姉が来るんです」

 からかい交じりの川島先生の質問に真面目に返す。

「そうですか、お気をつけて」

「はい。お先に失礼します」

 スマホを確認すると、数分前に姉から仕事が終わって今から向かう旨の連絡がきていた。
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