お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
 なんで私が隠れているんだろう。

 建物の陰に隠れて、激しく脈打つ胸に手をあてる。なにもやましくはない。さらに大知さんと姉を待たせている状況だ。

 でも、どうしてもあの場に出向き、自分が彼の妻だと名乗り出られなかった。

 水色のトップスとホワイトのレーススカートを組み合わせた姉は、上品で相変わらずスタイルがいい。

 すらりと伸びた白い手足、サラサラの髪。遠くからでもよくわかる、ぱっと目を引く美人だ。

 派手すぎず洗練されたアクセサリーを身につけ、ネイルにも靴にも抜かりがない。大知さんの同僚が手放しで褒めるのも理解できる。

 それに対して私は、動きやすさを重視した襟付きのシャツとチノパンというシンプルな取り合わせで、アクセサリーは結婚指輪だけ。化粧はしているが最低限だ。

 人前に出るのに問題がある格好ではない。けれど姉と比べたら、つい余計な考えが浮かぶ。

 彼の妻として、あんなふうには決して褒められない。あの場で私が大知さんの妻だと名乗ったら、大知さんに恥ずかしい思いをさせるんじゃないか。

 少なくとも私では自慢の奥様とは言われないだろう。

 落ち込みそうになったときにスマートホンが震え、着信相手が大知さんと表示され、我に返ってふたりのもとへ急いだ。

 先に私に気づいたのは姉で、続けて大知さんは耳にあてていたスマートホンを下ろしてこちらを見た。

「千紗、久しぶり! 今日は突然ごめんね。仕事忙しいの?」

「えっと……」
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