総長は、甘くて危険な吸血鬼




「……それより、まだ熱下がってないでしょ。部屋でゆっくり休みな」


優しい声なのに、そこには“これ以上踏み込ませない”という静かな圧があった。

……誤魔化された気がする。


そう感じた。
けれど、確信はない。ただ、彼の瞳の奥に、何か遠くを見るような光が宿っていた。


『……うん、そうする。ありがと』


それだけを残して、私は部屋に戻った。
閉めた扉の向こうからは再びキーボードの音がかすかに響いてくる。


……飛鳥馬くん、何をそんなに焦っていたんだろう。


その真相はわからないまま、私は自室のベットに戻り目を閉じた。







2日ほど寝込んでいた私は、ようやく風邪もすっかり治って元気になった。



叶兎くんたちからは「熱が治ったからって無理するな」と何度も言われたけど、翌日には文化祭準備に復帰していた。

多分、田舎に住んでた私がいきなり都会に来て、それからいろんな事があったから疲れとかが溜まってたんだと思う。


そんなこんなで、約1週間に及ぶ大掛かりな文化祭準備は、少しずつ着々と進んでいった。教室の装飾は日に日に華やかになり、クラスメイトたちは笑顔を見せながらも一生懸命作業している。




そしてついに、文化祭当日──




『ね、ねえ心音ちゃん、ほんとにこれ着るの!?』

「うん!胡桃サイコーに可愛いよ!」

『で、でもちょっとこれ流石に恥ずかし──』

「ほーらもう文化祭始まっちゃうから!行くよ!」


文化祭1日目の朝、心音ちゃんが渡してくれた衣装は思わず目を見張るメイド服。

猫耳と尻尾までついているし、ミニスカートにニーハイ、胸元は大きく開いていてヘソも出ている……。


この服…露出が多い…!!


周りを見るとこれぐらい露出してる服みんな普通に着てるけどなんでそんな平然といられるんだ…

というか何でこの衣装学校側に許可もらえるんだ。


今からでも変えてもらえないだろうかと駄々を捏ねていたら、心音ちゃんにガシっと腕を掴まれて更衣室から半強制的に連れ出された。

これから、この恥ずかしい衣装で教室に出なきゃいけない。頭の中で「どうしよう…!」がグルグルと回る。


「あ!ほら赤羽くんいるよ!見せてきなよ!」


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