総長は、甘くて危険な吸血鬼

その時、

首筋に触れた指先でそのまま鎖骨あたりをすーっとなぞられて、くすぐったくてパシッと叶兎くんの腕を掴んだ。

単にくすぐったかったからじゃない、

触り方が…その、血を吸おうとしている時と同じだったから…


『……今吸おうとしてた?』

「ダメ?」


ダメ?って言われても…!!

流石にこんな人通りのある場所で吸われるのは困る、流石に

いや、“水分補給!”みたいなテンションで一瞬でパパッと吸うなら全然良いんだけど、叶兎くんの場合一回もそんな一瞬で終わった事がない。というかいつも吸血だけで終わらない…

…なのにほんの一瞬だけ「いいよ」なんて言いそうになってしまった自分がいて、慌てて首を振る。


『今は、ダメ…!血なら後であげるから、ほら教室もどろ!!』


私は叶兎くんの腕の中から無理やり抜け出して、早足で教室に向かいながらそう言った。







教室に戻るとすぐにキッチンの方から呼ばれた。
そこから30分程は息をつく暇もない。

注文を受け、飲み物や料理を運び、席を案内し…気づけばひっきりなしに動き回っていた。


『こちらご注文の品になります!』

「ありがとう。」


笑顔で飲み物を置いたその席にいたのは、夫婦らしき二人組。

私は思わず足を止めてしまった。


「…どうかしましたか?」

『あっ、すみません!綺麗な方だなと思って…』


銀糸のように透き通る髪を持つ女性と、細く真っ直ぐ流れる黒髪の男性。
整いすぎた容姿に、ほんの一瞬、呼吸を忘れる。

初めて会うはずなのに、どこかで見たことがあるような……そんな既視感が胸をよぎった。


「ふふ、ありがとう。あなたもとっても可愛いわよ」

『あ、ありがとうございます…!』


柔らかに笑った女の人の目は、けれど奥が読めない。
ただ微笑まれているだけなのに、心の奥まで見透かされているような、不思議な感覚がした。
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