総長は、甘くて危険な吸血鬼
『か、叶兎くん落ち着いてっ!私は大丈夫だから…!』
いつにもなく不機嫌オーラ全開で、
今にも朔に殴りかかりそうな勢いの叶兎くん。
普段なら校内で自分から騒ぎを起こすような人じゃない。
だけど今の叶兎くんは、私を傷つけた朔を前にして完全に“総長”の顔をしていた。
教室の空気は一気に不穏になり、見物していた生徒たちが逃げるように距離を取り始めた。
流石にヤバいと思ったのか、春流くんまでもが慌てて止めに入ろうとしている。
「さっきからくーちゃんくーちゃんうるせぇんだよ、てめぇは胡桃の何なんだ?」
「さあ?当ててみてよ」
「は、舐めてんの?喧嘩売ってんなら買うけど」
既に怒りで限界を超えている叶兎くんに、さらに火をつけるような言葉を重ねる朔。
胸ぐらを掴まれているのに、怯むどころか笑みすら浮かべている。
まるで、わざと挑発しているみたいに。
一体何を考えてるんだろう。
朔、何が目的…?
「僕の喧嘩を買うなら、うちの組織への宣戦布告って受け取るけど?」
「は?何でそんな大きな話に……、待った、お前…」
朔の胸ぐらを掴んだまま、叶兎くんがずいっと顔を寄せる。
距離が近すぎて、今にもぶつかりそうなほど。
一瞬の沈黙のあと──
ドンッ、と。
叶兎くんが勢いよく手を突き出し、朔の身体を押し退けた。