総長は、甘くて危険な吸血鬼
「てか天音は?」
「あー、なんか出かけるって言って出てった」
『天音くんならさっきエレベーターの前で会ったけど、野暮用が…みたいなこと言ってたよ』
この時間に誰かが出かけるのはどうやら日常茶飯事らしく、みんな特に驚いてはいないみたいだった。
「そういえば、あの後大丈夫だった?」
『あの後?』
春流くんが料理を取り分けながら何気なく尋ねる。
テーブルに並ぶご馳走は、全部九条くんが作ったらしい。
見た目も香りもレストラン並みで、改めてこの人の料理の腕前に驚かされる。
あの後……朔と会った時のことかな。
「怪我とか…」
『平気だよ!心配してくれてありがとう』
血を吸われたので怪我はしてなくはないけど、叶兎くんが治してくれたので…
とはいえまさか朔に血を吸われるなんて思ってもみなかったけど。
「ちょっと待った、初耳なんだが。文化祭中に何かあったのか?」
食事の手を止めて、桐葉くんが鋭い目をこちらに向ける。
「BSの総長が胡桃に接触してきたんだよ」
「えっ、?!」
「は…?!BSの総長!?おい叶兎、そういう事はちゃんと知らせろ」
飛鳥馬くんも目を見開き、ざわっとした空気が流れる。
天音くんは知っていたみたいだけど、桐葉くんと飛鳥馬くんにはまだ伝わっていなかったらしい。
一方、九条くんは……最初から知っていたかのように落ち着いた顔をしていた。
「…しばらく1人で行動するのは控えた方がいいかもな」
九条くんの低い声に、場の空気が一気に引き締まった。