【完】総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅰ
「あのさ」
『何っ…』
いきなり両頬を強い力で掴まれ、後ろに下がる勢いのまま、ドスンと背中が冷たい壁に叩きつけられた。
鈍い衝撃と痛みが走る。
「僕がどれだけ君のこと好きなのか、ちゃんと教えなきゃわかんない?」
至近距離で見つめてくる朔の細い指が、私の唇をなぞった。
冷たいはずなのに、ぞわりと背筋を這うような熱さが残る。
冗談でも、ただの脅しでもない。
視線の奥に宿る熱を見てしまって、逃げ場を失った気分だった。
どうにかしてこの場を収めたいけど、今何を言っても朔を刺激してしまいそうで、言葉が出ない。
『朔、……っ、こんなこと、もう辞めようよ』
「…大人しく言うこと聞いてくれるなら、まだ何もするつもりなかったんだけど」
拘束を振り払おうと腕を暴れさせたけど、簡単に掴み返されてしまった。
両腕を頭上の壁にベタリと押し付けられ、完全に身体の自由を奪われる。
……力、強すぎる……っ。
『私…吸血鬼のみんなの事情とかはよく知らないけど、…でも、私がいたい場所はここじゃないの…!』
吸血鬼たちの複雑な事情なんて分からない。
でも、私が本当に一緒にいたい大切な人がいる場所は、ここじゃない。
だからやっぱり、自分の心に嘘をつくことだけはできなかった。
「またあいつかよ。」
私の言葉を聞いた瞬間、朔の顔が激しく歪んだ。
唇に苦い、歪んだ笑みを浮かべながら狂気を孕んで呟く。
「もう、力づくで僕のものにしちゃおうかな」
そう言って、一気に顔を近づけてくる朔。
嫌だと横を向いて拒絶すると、頭上に固定されていた両腕をさらに強く押さえつけられ、もう片方の手でガッシリと顎を掴まれて正面を向かされた。
どうしよう、このままじゃ…流される…!
──コンコン。
唇が触れる寸前、突如聞こえたドアのノック音に朔は動きを止めた。