【完】総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅰ
合図を受け取った私たちは、すぐさま身を低くしてアジトの裏口へと向かった。
静まり返る空気の中、叶兎くんが鉄製の重い扉をそっと押し開ける。
薄暗い廊下を警戒しながらしばらく先へ進むと。
「……誰だ?」
暗闇の奥から、低い声とともに複数の男たちが立ち塞がるようにして現れた。
黒い特攻服を着た男たちの鋭い眼光が、侵入者である私たちを容赦なく射抜く。
「ちっ…」
相手が声を上げるよりも早く、叶兎くんが背後に回り込み容赦なく拳を振り下ろした。
鈍い音と共に男が壁に叩きつけられる。
…でも、その人達の目はどこか虚ろに見えて。
「…あいつの能力か」
叶兎くんが冷たく吐き捨てる。
恐らく、この人達も朔の能力の影響を受けているのだろう。
男たちは痛みに呻くこともなく、おぼつかない足取りでゆらりと立ち上がると、無防備にも私たちに向かって突っ込んできた。
その中の体格のいい男一人が、突然ターゲットを切り替えるようにして、真っ直ぐ私の方へと軌道を変えて襲いかかってくる。
…っ!?私……!?
「胡桃っ!」
自分の身は、自分で守らなきゃ…!
相手が1人なら、受け止められる。
お父さんに叩き込まれた護身術を思い出し、グッと足を踏みしめて身体を構えた。
男の拳が迫ったその瞬間。
私の身体を中心に、空気が震えるような波動が駆け抜けた。
「?!…」
直前まで殺気を剥き出しにしていた男の動きがピタリと止まり、糸が切れた人形のようにガクリとその場に崩れ落ちる。
恐る恐る、ゆっくりと男の顔を見上げると、その瞳にはさっきまで存在しなかった正気の光が、確かな宿りを見せていた。
「俺達……何を…?」
男が困惑したように頭を押さえる。
それと同時に、周りで乱闘していた他の男たちも一斉に動きを止め、次々と正気に戻っていく。