総長は、甘くて危険な吸血鬼
……なんて、簡単なんだろうと思った。
この時の安堵は忘れられない。
安堵してしまった自分への嫌悪感も初めのうちだけで、この一線を越えてしまったら後は早かった。
何度も能力に頼る度、気づけば何も感じなくなっていて
全部どうでもよくなって
日に日に、闇の中へ堕ちていってしまった。
能力を抑える方法も少しずつ分かってきたけど、それはその分能力を使い続けている証拠だ。
そんな俺を、闇に紛れて生きていた人間達はすぐに見つけた。
「良い仕事を紹介してやる」
「お前に頼みたい仕事がある」
手を出してはいけない世界と分かっていたけど、既に汚れ切っている俺にはもう失うものなんて無い。だからもう後戻りなんてできなかった。
声をかけてくる連中は俺を“使える駒”としてしか見てなかったけど、こんな形で誰かに必要とされる事さえも俺にとっては精神的な救いだったのかもしれない。
「随分荒れてるみたいだね」
でも、そんな時に出会ったのが、天羽朔だった。
当時はまだBLACKSKYの総長ではなく、副総長だった朔。
路地裏で膝を抱えていた俺に声を掛けて来たあの夜の事は今でも鮮明に覚えている。
…また仕事の話かな。
そう思ったけど、目の前に現れた男の妙な威圧感と纏っている空気感が、明らかに只者ではないと思わざるを得なかった。