総長は、甘くて危険な吸血鬼
「俺達なら最高のチームになると思うんだ。」
その瞳には一切の疑いも不安もなかった。
無邪気に笑うその姿がやけに眩しく見える。
けど俺は即答できなかった。
…………だって俺は、BLACKSKYの一員だから。
この日の夜、朔にこの話をした。
ちょうどこの時期、前の総長が失踪し、朔が新しい総長の座についたばかり。
「……WhiteLily?」
朔は薄く笑って、ワイングラスを揺らす。
「ふうん、面白いじゃん。いい機会だし、そのまま入りなよ」
「え?」
てっきり「断れ」と言われると思っていた。
それなのに、返ってきたのは正反対の言葉。
「天音の能力が効かないほど血筋の強い吸血鬼が3人もいるんだよね?そのチーム、きっと大きくなる。だから、お前はスパイとしてそいつらを監視するんだ。」
…ふざけんな、と喉まで出かかった。
押しに負けて気まぐれで入った生徒会だったけど、俺自身を受け入れてくれたあの場所は…たった数週間しか経ってないのに居心地が良かったから。スパイなんて、その信頼を裏切る事になる。
「…まさか、情でも湧いたんじゃないよね?」
ごくり、と息を飲む。
嫌だなんて、言えなかった。
「君を学園に入れたのは気分転換の為で、新しい仲間を作れって意味じゃないよ?」
冷酷な視線。
それは敵に向けるときと同じものだった。
「必要ないと思って言ってなかったけど、今のうちに釘を刺しておいたほうが良さそうだね。」
朔は手に持っていたグラスを机に置いて、視線を上げる。
「僕、裏切り者には容赦しない主義だから。気をつけてね。」
その瞬間、背筋を氷柱でなぞられたように冷えた。
言い返す余地なんてどこにもなかった。
…もしも、朔よりも先に叶兎に出会っていたら、何か違ったのかな。
……これが、俺の「偽り」の始まり。
俺が生きてきた、人生。