【完】総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅰ
【side胡桃】
「……幻滅したでしょ?…俺は最初からずっと、騙してたんだよ」
過去のすべてを吐き出し終えた天音くんは、絞り出すようにして重たく深い息を吐き捨てた。
自嘲にも似た痛々しい声音と共に、力なく伏せられた瞳が僅かに小さく揺れている。
……ただ、自らが背負ってきた過去と取り返しのつかない罪悪感に、いまにも押し潰されてしまいそうな強い後悔が宿っていた。
息をのむような沈黙が、重く部屋を支配する。
誰一人として、すぐには言葉を返すことができなかった。
だって……今の話を聞いて、軽々しい慰めの言葉なんて、絶対に差し出せるはずがなかったから。
だけど──。
「幻滅なんてしない。」
その凍りついたような静寂を、容赦なく突き破ったのは叶兎くんだった。
ゆっくりと歩み寄り、真っ直ぐ天音くんを見据える。
「だってそれって、全部家族の為にやったことだろ。…天音はやっぱり、強いよ。俺の目は間違ってなかった」
「え…」
思いもよらない言葉に、天音くんは顔を上げた。
否定されることを覚悟していた彼にとって、それはあまりに意外で。
その瞳に驚きと、ほんの僅かな希望が差し込んだ。
「…だからさ」
叶兎くんは一歩踏み込み、優しい音色で告げる。
「お前の今の立場とか黒い過去とか、そんなくだらないもの全部一回忘れてさ……ただの『栗栖天音』として、本音で答えて欲しい。……天音が、本当に心から居たいと思える場所は……どっち?」
天音くんの唇が微かに震えた。
たった数秒の沈黙が、長く感じる。
「…………俺は…。」
かすれた声で、確かに紡がれた言葉。
「…………White Lilly のみんなと……一緒にいたい」
それは、今までずっと自分の心の中に固く閉じ込め、押し殺し続けてきた本当の感情を…やっと解き放つような告白だった。
天音くんのその言葉を聞いた瞬間、叶兎くんの表情がふっと柔らかく崩れ、無邪気で眩しい笑顔が弾ける。
きっと、初めてクラスで天音くんを生徒会に誘った時も、叶兎くんはこんな風に笑っていたんじゃないかな……。
「なら、さっさと帰ってこい」
伸ばされた手は迷いを許さないほど真っ直ぐで。
背後で見守る仲間たちもまた、その光景を優しく支えるように見守っている。
天音くんは観念したように、深く長いため息を吐いた。
その吐息には、肩の荷が下りた安堵と、過去への後悔と、そしてこれからの未来に対する確かな希望が入り混じっている。
……そして、ゆっくりと、かみしめるようにその手を握り返した。
「……………ほんと、叶兎には敵わないや。…………みんな、今までずっと、ごめん。こんな俺を受け入れてくれて…本当に、ありがとう」
その声音には、初めて重荷を下ろした少年の、素直な感謝が滲んでいた。