総長は、甘くて危険な吸血鬼



「……幻滅したでしょ?…俺は最初からずっと、騙してた。」


話し終えた天音くんは、重たく息を吐いた。

自嘲にも似た声音と共に、伏せた瞳が僅かに揺れる。

その眼差しは諦めでも憎悪でもなく、ただ己の過去に押し潰されそうな後悔を宿していて、

誰も、すぐには言葉を返せなかった。

天音くんが背負ってきたものの大きさに、軽々しい慰めの言葉など差し出せるはずがなかったから。


「幻滅なんてしない。」


その沈黙を破ったのは、叶兎くんだった。

ゆっくりと歩み寄り、真っ直ぐ天音くんを見据える。


「だってそれって、全部家族の為にやったことだろ。…天音はやっぱり強いよ。俺の目は間違ってなかった」

「え…」


思いもよらない言葉に、天音くんは顔を上げた。

否定されることを覚悟していた彼にとって、それはあまりに意外で。
その瞳に驚きと、ほんの僅かな希望が差し込んだ。


「…だからさ」


叶兎くんは一歩踏み込み、優しくも決して逃がさない声音で告げる。


「お前の今の立場とか過去とか、そういうの全部忘れて、…ただの栗栖天音として答えて欲しい。……天音が、本当に居たいと思える場所はどっち?」


天音くんの唇が微かに震えた。

たった数秒の沈黙が、長く感じる。


「…………俺は…。」


かすれた声で、確かに紡がれた言葉。


「White Lilly のみんなと、一緒にいたい」



それは、押し殺してきた感情をやっと解き放つような告白だった。

叶兎くんはその言葉を聞いて、ふっと無邪気な笑顔を浮かべる。

…きっと、初めて天音くんを誘った時も今みたいな笑顔だったんじゃないかな。



「なら、帰ってこい」



伸ばされた手は迷いを許さないほど真っ直ぐで。
背後で見守る仲間たちもまた、その光景を優しく支えるように見守っている。


天音くんは観念したように、深く長いため息を吐いた。

その吐息には、安堵と後悔と、そして僅かな希望が入り混じっている。

…そして、ゆっくりとその手を取った。


「……ほんと、叶兎には敵わないや、…………みんな、今までごめん。こんな俺を受け入れてくれて…ありがとう」


その声音には、初めて重荷を下ろした少年の、素直な感謝が滲んでいた。



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