総長は、甘くて危険な吸血鬼
だが次の瞬間──
崩落した瓦礫の山が壁のように立ちはだかり、空間を分断した。
その壁の向こう側に、ただ一人。
私だけが、隔離されるかのように閉じ込められてしまった。
肌を舐める熱風に、思わず身を竦める。
「…胡桃!!」
「胡桃ちゃん?!」
叶兎くん達が必死に呼ぶ声が聞こえるが、目の前の燃えた瓦礫のせいで向こう側には戻れそうにない。
「くそっ……熱い…それに瓦礫が厚すぎる…!」
叶兎くんが何度も腕を伸ばして力づくで瓦礫をどかそうとするけど、炎が容赦なく吹き荒れ、触れることすら難しい。
焦燥に満ちた声が聞こえても、何一つ進展しない現実がじわじわと胸を締めつけてくる。
「もうあまり時間がないから、別ルートからの脱出を試みた方が良い。幸い、あっち側の道はまだそこまで火が回ってない」
冷静な蓮水さんの声が聞こえあたりを見渡せば、まだ炎に呑まれていない通路が残っている。
確かに、この道でも外まで辿り着けそうだ。
「一人別行動なんて危険すぎる!それにお前、こんな強引に燃やして、朔の件はいいのかよ」
叶兎くんの声が震える。
怒りと焦りが混じっているのが、壁越しでも痛いほど伝わってきた。
それでも蓮水さんは一瞬だけ言葉を失い、唇を噛みしめるように黙り込んだ。
「……。それは」
でもその時、
奥の階段の上に、人影が立っているのに気づいた。
煙が舞う中ぼんやりと浮かび上がる輪郭。
逃げもせず、ただ無気力に立ち尽くしていた。
『………朔?』
目を疑う。
でも、間違えようもない。
もし外に出るなら必ずあの前を通らなければならない。
そして……私には、彼と向き合いたい理由がある。
『みんな!私は大丈夫だから、みんなは反対側から逃げて!』
煙にかき消されそうな声で叫び、背を向ける。
必死に呼び止める声が追いかけてくるけど、私は振り返らなかった。
私は覚悟を決め、
熱で揺れる空気の中、階段の方へと歩き出した。