総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅰ

歪んだ愛の終着点



近づくにつれて心臓の鼓動は速くなるばかり。
けれどそこにあるのは、恐怖だけではなかった。


『…朔。』


両側から登れる螺旋階段の踊り場、手すりに寄りかかるように朔が立っていた。

名前を呼べば、朔の視線がゆっくりと降りてくる。


「くーちゃん…?」


その目は深い闇に沈んでいて、けれどどこか子供のように縋る色で。

でも今はその相反する眼差しに射抜かれるのが、怖い。

知っているはずの「朔」なのに、今はもう別人で。


「まさか、自分から会いにいてくれるなんて!」


朔の顔がぱあっと綻び、無邪気さすら漂わせた笑みを浮かべた。

そして駆けるように軽やかに階段を降りてくる。

あまりに自然であまりに馴染んだ仕草に、危うく心を揺らされそうになった。

…騙されるな私。
今の朔は、正気じゃない。

反射的に一歩下がると、その小さな動きに、朔の笑みががすっと消える。


「…ねえ。何でこの前勝手に逃げたの?」


冷え切った声に、背筋がぞわりと震えた。
けど、ここで怯むわけにはいかない。


『朔、昔の優しい朔に戻ってよ…、あの頃は、こんなじゃなかったじゃん…』

「昔の僕を、勝手に語るな」


吐き捨てた声は荒いけど、瞳の奥がかすかに揺れた。
悲しみ、依存、歪んだ執着…。
あまりにも多くの感情が混じりあっていて、見ているだけで胸が締め付けられる。

じりじりと距離を詰め寄られ、背中が冷たい手すりへと追い込まれる。

朔は逃げ道を塞ぐように横の手すりに「ガン」と片手を打ちつけ、もう片方の指先で私の頬に触れた。
ひやりとした指が、耳の下をなぞる。


「逃げないでよ。僕、またくーちゃんに拒絶されたら…もう優しくできない」

『…っ』


耳元で囁かれ、視線を絡め取られる。

真っ直ぐに注がれる視線が怖くて、思わず目を逸らした。


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