総長は、甘くて危険な吸血鬼
その夜。
寮が静まり返った頃、俺は机に向かって報告書をまとめていた。
ペン先が走る音だけが静寂の中に響く。
俺の血筋能力は“空間把握”──表向きにはそう伝えているけど…実際の能力はそれだけではない。
本質は…相手の感情の流れが読める。
流石に心を読む事までは出来ないけど、心の底にある迷いや葛藤の温度を感じ取ることはできる。
あの時の赤羽叶兎から感じたのは──責任。仲間への想い。
後継者になる土台としては申し分ない器だと思った。
でも、彼はきっと…全部自分で背負おうとするタイプだ。
それが彼の強さであり、危うさでもある。
窓の外を見ると月が淡く光っていた。
風がカーテンを揺らす。
…それよりも、一つ引っかかった事がある。
White Lillyのメンバーの1人──栗栖天音。
柔らかい光のような目をした彼からは、微かな陰を感じた。
明るさの裏に潜む“罪悪感”と……強い願い。
恐らく彼は後ろめたいと思うような何かを隠している。
そしてそれは他のメンバーは気づいていない。
……ま、俺の仕事は干渉しない事が前提だから。彼らには黙っておくけどね。
栗栖天音のその闇が表に出た時どう対応するのか。
それも全部…監視対象。
今週分の報告書を書き終え、ペンを置く。
それが俺の“観察者”としての判断。
──麗音さん。
あなたが期待する後継者は、きっと想像以上に、
まっすぐで、不器用な人です。