総長は、甘くて危険な吸血鬼





その夜。




寮が静まり返った頃、俺は机に向かって報告書をまとめていた。
ペン先が走る音だけが静寂の中に響く。


俺の血筋能力は“空間把握”──表向きにはそう伝えているけど…実際の能力はそれだけではない。


本質は…相手の感情の流れが読める。

流石に心を読む事までは出来ないけど、心の底にある迷いや葛藤の温度を感じ取ることはできる。


あの時の赤羽叶兎から感じたのは──責任。仲間への想い。
後継者になる土台としては申し分ない器だと思った。


でも、彼はきっと…全部自分で背負おうとするタイプだ。

それが彼の強さであり、危うさでもある。



窓の外を見ると月が淡く光っていた。
風がカーテンを揺らす。



…それよりも、一つ引っかかった事がある。

White Lillyのメンバーの1人──栗栖天音。

柔らかい光のような目をした彼からは、微かな陰を感じた。
明るさの裏に潜む“罪悪感”と……強い願い。


恐らく彼は後ろめたいと思うような何かを隠している。
そしてそれは他のメンバーは気づいていない。


……ま、俺の仕事は干渉しない事が前提だから。彼らには黙っておくけどね。

栗栖天音のその闇が表に出た時どう対応するのか。
それも全部…監視対象。



今週分の報告書を書き終え、ペンを置く。

それが俺の“観察者”としての判断。



──麗音さん。

あなたが期待する後継者は、きっと想像以上に、

まっすぐで、不器用な人です。




< 375 / 405 >

この作品をシェア

pagetop