総長は、甘くて危険な吸血鬼
【side胡桃】
叶兎くんの部屋の前で、声をかけるタイミングを掴めず何度も廊下を往復していた。
ノックをする勇気を出そうとした瞬間扉が開いて、飛鳥馬くんが中から出てくる。その顔はどこか吹っ切れたような表情で、そのまま静かに走り去って行った。
……何か、あった?
そして状況を理解出来ていないまま、目の前の扉が勢いよく開いた。
目が合った瞬間、息が止まった。
久しぶりに見る叶兎くんの顔。
よく見ると目の下に薄いクマがある…ここ最近、ちゃんと寝てないのだろう。
でも、鋭い瞳はいつものままで。
けれど今は、その視線がかすかに揺れていた。
「……くるみ、」
叶兎くんはふらふらと近づいて来て、そのまま驚く間もなく重さが肩にのしかかってくる。
『ど、どうしたの……!? って、熱……!』
慌てて額に手を当てると、まるで火でも灯っているみたいに熱い。
「何か、胡桃の顔見たら安心して気が抜けて…疲れが一気に…」
こんな状態の叶兎くん、珍しい。
相当自分を追い込んで、抱え込んでいたんだろう。
『叶兎くん、“吸血鬼は風邪引かない”って前に言ってたよね…?』
「……あれ、嘘」
掠れた声でそう言って、叶兎くんは少し笑った。