総長は、甘くて危険な吸血鬼
叶兎くんに手を引かれてメイン会場の大広間へと足を踏み入れると、廊下から一歩入った瞬間視界がぱっと明るくなった。
高くそびえる天井から吊り下げられた巨大なシャンデリアの光、グラスのぶつかる音、楽しげな笑い声、心地よいクラシックの旋律。
視線を巡らせれば、どこを見ても上品なドレスや仕立ての良いスーツに身を包んだ吸血鬼たちばかり。
この日のために日本中の吸血鬼達が集まっている。
この式典は基本的には吸血鬼以外は入れないけど、大企業や財閥関係者は人間でも特別に招待されているらしい。
「──あ! 叶兎と胡桃ちゃん!!」
賑やかな声が響いて視線を向けると、そこにWhiteLillyのみんなが集まっていた。
春流くんが大きく手を振り、嬉しそうに笑っている。
『みんな!』
思わず駆け寄ると、なぜか全員が顔を見合わせて目を丸くした。
「胡桃っち、綺麗すぎ」
「ドレスも髪も、すごく似合ってるな」
「うん、今日の胡桃ちゃん、一段と可愛い」
『あ、ありがと……!』
一斉に褒められて、顔が熱くなるのを誤魔化すように笑った。
み、みんな言葉がストレートすぎる…!
そんな私の隣で叶兎くんが小さくため息をついた。
「……だから、見せたくなかったのに」
拗ねたような口ぶりで少しだけ眉を寄せている。
「これは、叶兎が過保護になる理由がわかるわ……」
九条くんが苦笑すると、周囲の空気がふっと和らいだ。
その時、ギュッと右腕を掴まれて振り返る。
「胡桃さんっ……!」
振り向けば、叶兎くんの妹の凛ちゃん嬉しそうに目を輝かせて立っていた。
『凛ちゃん! 久しぶり〜!』
「お姉ちゃん、綺麗……」
『ふふ、ありがとう。』
凛ちゃん、ほんとにかわいい……
っていうか…私が叶兎くんと結婚したら、凛ちゃんって私の妹になるってこと……!?
急にそんなことを思って、ひとりで照れくさくなる。