【完】総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅰ
「ごめん……うちの母さん、いつもあんな感じで強引で。」
静かな控え室で、叶兎くんが少し困ったように苦笑いを浮かべた。
『ふふ、叶兎くんの強引さって、お母さん譲りなのかな?』
「……そうかも。」
叶兎くんはふっと愛おしそうに目を細めると、私との距離を詰めるようにゆっくりと一歩踏み出してきた。
その影が私の顔の上に落ちる。
そして──額に、優しい感触が触れた。
『……!?か、叶兎くんっ!』
瞳を見開いたまま、息を飲む。
「ふ。隙あり。」
唇を離した叶兎くんが、小さく悪戯っぽく笑う。
その少しだけ意地悪な声に、胸がキュンと締め付けられた。
『も、もう……!』
不意打ちで恥ずかしさに顔を隠したけど、耳まで熱くなっているのが自分でも分かった。
叶兎くんはそんな私の手を取り、指先を絡めながら言う。
「俺達も行こ!White Lillyのみんな、もう来てるはずだから。」
その手のひらはあたたかくて包み込まれるみたいで、さっきまでの不安をかき消してくれる。
まるで「大丈夫」って言葉の代わりみたいに、安心をくれた。
式典前だというのに今日も叶兎くんに翻弄されっぱなし。
でも──そんな毎日が、どうしようもなく楽しかった。