総長は、甘くて危険な吸血鬼
しばらくWhite Lillyのみんなと話したあと、式典の開始を告げる鐘の音が響いた。
重厚な音が大広間の隅々まで広がり、ざわめいていた空気がゆっくりと静けさに包まれていく。
私たちは大広間の奥、二階のバルコニーのそばに立ち式典の開始を待っていた。
一歩前に出れば会場全体が見渡せる。
そして、その中央でバルコニーの上に立つ父──赤羽麗音がゆっくりと一歩前へ進んだ途端、場の空気が変わり誰もが父に視線を向けた。
「本日はお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。」
緊張感と荘厳さが一瞬で会場を包み、誰もが息を潜めた。
私の知っている父はもっと柔らかい雰囲気で優しい人だ。
でも今目の前に立っているのは、トップとしての責任を背負う存在そのものだった。
そして私はというと、ただただ硬直していた。
人の多さにも空気の重さにも圧倒されて、心臓の鼓動が耳の奥でうるさいほど鳴っている。
おまけに、父のスピーチはずっと続いていたけれど何を話しているのか全く頭に入ってこない。
「胡桃緊張しすぎじゃない?」
でも叶兎くんはいつもと変わらない調子で軽くからかってくる。
私がこわばった肩をぎこちなく上げると、叶兎くんは、ふっと笑った。
『だ、だって、こういう場面初めてなんだもん!』
「俺が隣にいるから絶対大丈夫だよ。ほら、笑って」
そう言いながら、叶兎くんは私の頬を指でむぎゅっと引っ張る。
『んぅ……ちょっと叶兎くんっ!』
抵抗すると、叶兎くんはさらに楽しそうに笑った。
「可愛い」
あまりにも自然に言うから、一々心臓の音がうるさい。
ムッと睨み返しても叶兎くんは怯まない。
この人は本当にどんな場面でも堂々としていて、その自信が羨ましいくらいだった。
「緊張、解れたでしょ?」
『あ……確かに』
言われて気づけば、さっきまでの呼吸の浅さが少し楽になっていた。
「胡桃は笑った顔が一番可愛いんだから、笑ってよ。……あ、でも皆が胡桃に惚れたら困る……」
『もー今日の叶兎くん心配しすぎ!』
「……あ、でも胡桃俺のこと大好きだから大丈夫か。俺のものなんだもんね?」
からかうような声で、真っ直ぐな瞳を向けられる。
……ひ、否定はしないけど…
『……言わなきゃ良かった!』
「でも、俺も胡桃のものだから」
なんでそんな言葉を恥ずかしげもなく言えるの……!
そんな私の心を見透かしているかのように楽しそうに覗き込んでくる。