【完】総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅰ
──ポタッ。
勢いよく走っていた私の額に、冷たい水滴がひとしずく落ちてきた。
次の瞬間、ザァァァ……と音を立てて雨が激しく降り始め、あっという間に私の髪や肩を濡らしていく。
『雨っ?!傘持ってきてない…』
冷たい雨粒が肌を叩き、体温を容赦なく奪っていく。
だけど、一度頭を冷やそうと思って何も考えずにアジトを飛び出してきてしまった手前、今更戻るなんてできるはずもなかった。
この後、どうしよう……。
ここがどこかも分からないし、こんな夜中に自力で学園まで帰るなんて絶対に無理だ。
最終的には、嫌でもあのアジトへ戻るしか選択肢がないという現実に、深い溜息が漏れる。
『はぁ…』
私……本当は、期待してたのかな……。
雨に濡れながら、ポツリと自分の本心に気づいてしまう。
ううん。“かな”じゃない。
私は……期待していたんだ。
冷たくて不器用な叶兎くんが、私だけに魅せてくれる優しさ。
あの『好き』という言葉は本当で、私のことを本気で好きになってくれたんじゃないかって、密かに期待してしまっていたんだ。
…だから、こんなにも胸が痛くて、苦しくて。
「ちょっとちょっとそこのねーちゃん。こんなところで傘もささずに1人なんて珍しいね」
『っ、』
不意に、暗がりから下品な粘つく声が響いて、はっと我に返って振り向くと、そこには柄の悪い見知らぬ男性がニヤニヤしながら立っていた。
あまりの不気味さに、思わず身体が固まる。
「オイオイ、そんなに警戒しないでよー」
逃げようと一歩後退りした時には、すでに遅かった。
気づけば私の周りには、いつの間にか4人の男たちが立ち塞がり、逃げ道を完璧に塞ぐように取り囲んでいる。