私を、甘えさせてください
「あー、やっぱり昨日の夜帰ってきて良かった。予定通りなら、ちょうどこの時間は飛行機の中だったよ」

「・・予定を変えて帰って来たくなるくらい、私に・・」

「そう。会いたくて仕方なかった。そんなふうに思ったの、美月が初めてだ」


ガシャン。

持っていたケーキ用のフォークが、手から滑り落ちる。

面と向かって『会いたくて仕方なかった』なんて言われて、いい意味で動揺した。


「空川さんも、反則・・だよ。そんなこと言われたら・・」

「キスしたくなった?」

「・・それだけじゃ済まない・・かも」

「じゃあすぐ帰らなきゃ!」


立ち上がって、ふたりで笑い合った。
昨日まで気まずかったのが嘘のようだ。


「そろそろ出ようか」

「うん、そうだね」


食べ終わった私たちは、レストランを出て帰り道を歩いた。


「美月、明日は何時の新幹線だ?」

「15時過ぎ、かな」

「ん? 予定変わった? 申請はもっと早かった気がしたけど」

「うん。月曜のプレゼン担当のメンバーが、みんなと同じ時間のチケット取り損ねたらしくて。譲って、1本遅いのにした」

「それならあと丸1日あるな。明日、品川駅まで送っていくから、それまで一緒でいい?」


私はうなずきながら、空川さんがごく自然に『一緒でいい?』と口にしてくれることが、とても嬉しかった。

< 32 / 102 >

この作品をシェア

pagetop