私を、甘えさせてください
入念に準備した採用イベントのプレゼンは、思いのほか反響があり、喜んだメンバーたちと打ち上げをしようということになった。

データ集めが大変だったこと、資料作りが難しかったこと・・・・それが報われたメンバーたちの嬉しそうな顔を見て、私も胸に迫るものがあった。


もうそろそろ締めようか、というタイミングで井川が現れる。


「永田課長借りていいかな。管理職同士、労いたいと思って」


その発言に、だいぶ酔っていた課のメンバーは『どうぞどうぞ!』と勢いづいた発言をした。

場の雰囲気に逆らえず、私は井川と店を後にする。


「どういうつもり?」

「そんな怖い顔するなって。少し昔話したいだけだから」

「昔話? どういうこと?」


まぁまぁと私の背中を押し、近くのバーに入った。


「美月は何飲む?」


何の気なしに私を名前で呼ぶ。
空川さんと、同じ呼び方をしないでほしいのに。


「俺はジンライム・・美月はカシスグレープフルーツでいいか?」

「あ、うん」


私が好きなカクテルを、まだ覚えているんだ。
井川のジンライムも、昔と変わらない。


「じゃ、乾杯」


グラスを持ち上げて軽く合わせる。
本気で昔話をするつもりなんだろうか。


「昔話・・っていうか、もう15年も経って時効な気もするけど、謝ろうかと思ってさ」

「何のこと?」

「ほら、あれだよ・・・・『美月は俺がいなくても、ひとりで大丈夫だろう?』って」

「別に謝ってもらうようなことじゃないから。実際、ひとりで大丈夫だったわけだし」

「まさか・・あれから誰とも?」

「そんなわけないでしょ。何年経ったと思ってるのよ」


この15年の間に、そういえば何人と付き合ったのかを頭のなかで数えてみた。

その中の誰とも結婚には至らず、結婚どころか恋愛に向いていないと、真剣に考えたのだった。

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