私を、甘えさせてください
『やり直したい』

そう・・ではないのだと思う。
やり直す、の意味を都合よく解釈しているだけだ。


「やり直したい・・わけじゃないでしょ?」

「えっ」

「寄りかかりたくなった、とか、そんなとこじゃない?」


本質が変わっていなければ、だ。

井川は高い瞬発力や推進力があるものの、その反動も大きく、沈んだ時の気持ちの依存度が強かった。


「ハハッ、お見通しかよ。さすがだな」

「何言ってるのよ。酔ってるのね、そんなこと言うなんて」

「酔わずにいられないよ・・俺、今回営業から外されたんだから」

「そういえば、井川はずっと営業だったね。何か・・あったの?」

「まぁ、あった・・かな。聞いてくれなくていいから、慰めてくれないか?」


カウンターの横に座った井川の手が、私に向かってのびてくる。

慰める・・が何を意味するのか、考えるだけでゾッとした。


「美月、今もひとりなんだろう? だったら、お互いにとって悪い話じゃないよな」


ニヤリと笑い、私の髪の毛に触れようとする。


触れられたくない!
とっさに、ぎゅっと目を閉じた。


でも、いつまで経っても触れられる感触が無い。


「本部長・・どうしてここに」


え?


目を開けると、井川の手をつかむ空川さんの姿があった。


「悪いけど、美月に触れないでくれ」

「は? 美月? 何言って・・」


井川は、まだ状況が飲み込めていないらしく、目を丸くしている。

空川さんはカウンターに紙幣を置き、私の背中を押した。


「行こう」

< 35 / 102 >

この作品をシェア

pagetop