私を、甘えさせてください
井川を残し、私たちはバーを出た。
振り返ることもなく、手を引かれて足早に遠ざかる。


「空川さん・・・・あの・・」

「間に合って良かった」

「うん・・ありがとう・・でも、どうして・・」

「ここまで来れば、さすがに平気か。ホテルに帰るだろ? 送っていくよ」


私の『どうして』には答えてくれなかった。
メンバーの誰かに聞いたのだろうか。


「泊まるところ、どこのホテルだっけ?」


泊まるホテル・・・・。
井川も、同じホテルを予約している。

さすがに乗り込んでくることはないだろうけど、できれば顔を合わせたくない。


「空川さん・・」

「ん?」

「もし良ければなんだけど、空川さんの泊まってるところに行ってもいい?」

「それは・・どうして?」

「井川が同じホテルを予約してて、鉢合わせしたくないの・・・・」

「そういう理由なら・・ね。一応ほら、出張なわけだし」


苦笑いしつつ、私を連れて行ってくれた。

お互いシャワーを浴びてベッドに潜り込むと、ようやくひと心地ついた気がした。


「美月、もう寝たら? 疲れてるだろ」


空川さんが、私の頭をなでながら言う。


何も聞かないんだ。
なぜ、あんなことになったのか・・・・。

そして、なぜ空川さんがあの場所に居合わせたのかも、聞いてなかったな。


そんなことを考えつつも、同じベッドにいる空川さんの暖かさが心地よくて、そのまま眠ってしまっていた。

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