私を、甘えさせてください
出張から戻った翌日の朝、出社するとフロアがざわついていた。


「おはようございます。何かあったの?」

「あ、課長・・なんか、朝から本部長と井川課長がピリピリしてて」

「え!? どういうこと?」

「井川課長が廊下で本部長に『騙すな』とか『何も知らないと思うな』とか何とか・・・・」


課のメンバーも動揺しているようだ。
上司が言い争っていたら、それは穏やかではない。


「少し話を聞いてくるから、みんなにはいつも通り業務するように伝えてくれる? 大丈夫だから」

「はい・・・・」


フロアを出て、まずどちらに行くか考える。
やっぱり、井川が先か。

人材開発1課を見渡して井川を探すものの、姿が見当たらなかった。


「あの、すみません」

「あ、永田課長。もしかして井川課長を探してます?」

「そう。ミーティングですか?」

「・・おそらく、役員室かと。本部長と常務の部屋に入っていったんで」

「ありがとう。行ってみます」


いったい、ふたりに何が・・・・。

空川さんは部下の前で声を荒げたりしないだろうから、井川が一方的に騒いだのだと思うけれど。


とはいえ、私が原因だと考えるのが、自然の流れな気がした。

それにしても、『騙すな』とか『何も知らないと思うな』ってどういうことだろうか。

空川さんが私を騙してる?

井川が、私の知らない空川さんの過去を知っている?


そういえば、ふたりは常務の部屋に入ったと聞いたけれど、常務は今週休暇で不在のはずだ。

だとすると、今もふたりが常務の部屋で話をしているとしたら・・・・。


常務の部屋の前まで行くと、バタン!という音とともに中から井川が出てくる。


「美月・・ちょうど良かった。ちょっと付き合え」

「え、でも・・」

「いいから。あんなヤツほっとけ」


中に空川さんがいる気配はしたけれど、井川に腕をつかまれて、その場を離れた。

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