私を、甘えさせてください
「課長って、もしかして『甘える = 可愛がってもらう』だと思ってたりしません?」

「・・う・・思ってたりするかも」

「難しくしてるの、そのせいじゃないですかね〜」

「それ、どういうこと?」

「だってほら、ここ見てくださいよ」


相澤さんは、ささっと操作したスマートフォンの画面を見せてくれた。

そこには、『甘える』の意味がいくつか並んで書いてある。


「課長にしっくり来るのは、この『相手の好意に遠慮なく寄りかかる』じゃないですか?

こっちの・・『可愛がってもらおうとして〜』っていうの、ピンと来ないでしょ?」

「・・・・来ない」

「さっきの傘の話なんて、まさに『相手の好意に遠慮なく寄りかかる』かなーって。
意識させずに課長を甘えさせるなんて、罪な男性!」


また会えるといいですね〜、と言いながら、彼女はミーティングルームに入っていった。


私も自分のデスクに戻ってノートパソコンを起動させたものの、今の相澤さんとの会話を思い返す。

勘違い・・ってわけじゃないけど、確かに『甘える』っていうことに、思い込みみたいなものはあったかもしれない。


もっと甘え上手だったら。
もっと可愛がられ上手だったら。

何度もそう思ってきたけれど。

そんなふうに考えなくても、良かったのかな・・。


ふと、デスクの脇に立て掛けた傘が目に入った。


また、会いたい。


来週になれば上司として着任し、会えることは分かっているけれど、そうじゃなくて。

そうじゃなくて・・・・。


『意識させずに課長を甘えさせるなんて、罪な男性!』


それが本当なら。

私が甘えられた人に、そして私を甘えさせた人に、もう一度会いたいと思った。

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