私を、甘えさせてください
15時を過ぎた頃、リビングのドアが開く音がした。


「空川さん・・起きて大丈夫?」

「うん・・。ずっと寝てて、ごめん」

「熱があるんだもの、しょうがないよ」

「・・なんか、いい匂いがする・・」


鍋焼きうどんの匂いにつられたのか、キッチンの方へ歩いていく。


「あ、うん。うどん作ったんだけど、少しなら食べられそう?」


うなずいて、空川さんはダイニングテーブルの椅子に座った。


「つらくない? ソファに座ったら?」

「いや、こっちで平気だよ」


ひとり分の土鍋に火を入れて、卵を割り入れて仕上げた。


「どうぞ。熱いから気をつけて」

「うん・・」


お昼に私も同じものを食べたから、味は問題ないはずだけれど、熱もあったし、もう少しやわらかくても良かっただろうか。


「美味い」

「本当? 食べられそうなら良かった」


食べ進めるのかと思ったら、空川さんはそのまま箸を置いた。

まだ、そんなには食べられないよね。


「無理しないで。食べられる分だけで」

「・・そうじゃないんだ」

「えっ」


「俺、こんなふうに美月に優しくしてもらっていいのかな・・・・あんなに泣かせたのに・・」


「・・・・それは、また今度にしない? いまは、食べて休まないと。ね?」


空川さんはうなずいて箸を持ち上げ、また少しずつ食べ始めた。

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