私を、甘えさせてください
「だから、海外赴任・・・・なのか」


はぁーーーっ、と彼は大きなため息をついた。


「まいったな・・・・。

俺、JHコンサルに戻るなら、前と同じ仕事じゃ美月に寂しい思いをさせるだけだって考えて、空きのポジションと着任の調整で毎晩海外との会議に出てたんだ。

でも、あの会社の人事は直前まで極秘で・・だから美月にも話せなかった」


毎晩、帰らなかったのはそのせい・・?

確かに、ヨーロッパやアメリカに合わせようとすると、どうしても日本時間だと遅くなってしまう。


「俺、支社をひとつ任されることになったんだ。そのポジションなら、出張が入ることはもちろんあるけど頻繁じゃない。

ただ、海外支社だから、当然そこにはいなきゃいけない。それで・・その・・俺のワガママなんだけど、美月に一緒に来てもらえないかって」

「・・拓真」

「分かってるんだ。無理言ってること。
仕事も辞めなきゃいけないし、日本も離れないといけない。
だけど・・、もし、考えてもらえるなら」


もう少し、早く聞きたかった。

毎晩何をしていたのか、どんな話し合いがされていたのか・・。

介入する余地が無かったのは分かるけれど、もう、いまさらだ・・・・。


「ごめんなさい。赴任は断れない」

「そうか・・」


私の両腕から、彼の手がずり落ちた。


「美月の赴任先は、オーストラリア・・シドニーか。確か、シドニーに空きがあるって・・」


その時、彼のジャケットの胸ポケットから、スマートフォンの着信音が聞こえた。


「ごめん、JHから呼び出しだ。また連絡する」


そう言って、ホテルのエントランスからタクシーに乗って行ってしまった。

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