私を、甘えさせてください
17時になるのを待って、彼に電話を掛ける。

呼び出し音はすぐに途切れて、彼の声がした。


「美月、どうした? 珍しいな」

「あ、うん。ちょっと聞きたいことがあって」

「聞きたいこと・・電話で済む話?」

「できたら、直接話したい」

「じゃあ・・ちょうど会議が終わったから、今日はもう帰るか・・。通りの反対側のカフェで待っててくれるか?」

「ありがとう。先に行ってるから」


聞きたいことは、ふたつ。

彼の赴任先と教会の話だ。
私の赴任先も、ちゃんと言わなきゃ。



コーヒーを飲みながら、彼が来るのを待つ。


『教会を予約してるんです』


結婚式のため・・だよね。

別れたいなんて思ってないって、本気だったんだ。

海外勤務希望を出していなかったら、ふたつ返事で一緒に行ったのかな・・。


カランカラン、とドアベルが鳴り、彼が入ってくるのが見えた。

なんだか、こんなふうに待ち合わせするのも久しぶりだ。


「お待たせ。どうした、ぼんやりして」

「ん? 今日もカッコいいなと思って、見惚れてた」

「何言ってんだよ。照れるだろ」

「ふふ」

「でも、俺も思った。いつ見ても綺麗だなって」

「ほんと? お世辞でも嬉しいよ」


そう言った私に、彼はアハハハと笑って、すぐに寂しそうな顔をした。


「香港・シドニー間は9時間か・・遠いな」

「え?」

「いまみたいに、美月に会えなくなる」


香港・シドニー間?


「ねぇ、シドニーって、私?」

「そう」

「じゃあ香港は、誰?」



「俺だよ」


< 94 / 102 >

この作品をシェア

pagetop