極上の愛に囚われて
「それではお連れさまがいらっしゃるまで、もうしばらくおまちくださいませ」
流麗なお辞儀をして、退室して行く。
スマホで時刻を確認したら、もう四時を過ぎていた。けれど、翔さんはまだ現れない。
「あ、メッセージ着てるかな」
ぼそっと呟きながらアプリを確認すると、午前中にもらったもの以外に新しいものはなかった。
しんと静まった部屋の中にひとりでいると、とても落ち着かない。無性に帰りたくなってくる。
『待たせたわね』
不意に隣室から女性の声が聞こえてきてギョッとし、体がビクッと跳ねた。
えっ、隣にお客さんいるんだ?
四時だから、料亭は混んでないと思うのだけど、襖一枚隔てただけの部屋にお客さんを入れるんだ?
『それで、なんの用なの。弁護士まで連れてるなんて、随分用意周到ね。私は忙しいの。手短に頼むわ』
なんか、高飛車な感じの人……。
『こちらに、サインをお願いいたします』
丁寧な口調の男性の声が聞こえてくる。多分弁護士だ。
『離婚届? いいの? 私と離婚しても。離婚なんかしなくても、私みたいに自由にしてればいいじゃない。一緒に住んでないんだから、女を連れ込んでも構わないわよ』